令和四年度東京大学大学院航空宇宙工学専攻&学際情報学府先端表現情報学コース ダブル院試合格記

 この記事は令和三年度東大幻想郷アドベントカレンダーの12/7分として書かれています。#かてごりガチャ

 

 初めましての方は初めまして、そうで無い方はお久しぶりです。GUT4年の時化(@Kom_sawyer)です。今夏、東京大学大学院航空宇宙工学専攻(内部受験)と東京大学大学院学際情報学府先端表現情報学コースの2専攻の院試を受験し、無事両方共に合格しました。同じく二つの専攻を受験しようと考えている後輩のためにダブル専攻院試体験記を書き残しておこうと思います。

  • なぜ二つ出願したか

 まず初めに、どうして私が二つの専攻を受験することになったかについて書きます。そもそも私は航空宇宙工学科で学んでおり、6月ごろまでは同院に進むつもりでいました。航空宇宙工学科の大学院にはJAXA周りで学べる研究室が幾つかあるので、その環境に身を置いて航空宇宙工学を学び続ける予定でした。しかし、相模原にある航空宇宙工学材料系の研究室へ見学しに行ったところ、日本における航空宇宙産業の大手である三菱電機NEC三菱重工IHIなどの採用は機械系や電気系の一括採用であり専攻により有利になる訳では無いこと、それらに就職しても宇宙機を作るはずが冷蔵庫を作り続ける場合もあるということ、私が宇宙でやりたかったことは学生の研究というよりは大手メーカーに入らないとできないこと等、航空宇宙院試モチベが落ちるお話を色々と聞いてしまいました。また、航空宇宙工学科のノリがエリート思考っぽくもあり、理系ロシア語時代と比べると創作オタクが周りに全然おらず、コロナのせいもあって学科での交友関係の少なさに多少の不満を持っていました。成績は上々優上だったものの、このまま工学のみを学んでいくと気を病んでしまうと感じました。その後、大学一年の頃からの趣味であり、かつ同好の士が多そうなCGやVR系の研究室にも行くことを考え始めました。VR周りで最も行きたい研究室は情報理工からも学生を受け入れていたのですが、私が調べ始めた頃には既に情報理工の出願期間が終わっていたため、学際情報学府に出願することにしました。正直なところ出願ガバでしか無いのですが、学際情報学府は情報理工よりも(定員は少ないが)院試の負担が軽くダブル受験向きだったこと、自分がそもそも情報理工よりは「表現」を学びたかったのもあり、結果オーライかなと思います。航空宇宙工学の大学院も、一応最後まで選択肢を残しておくために受験しておくことにしました。

 

 こうしてダブル院試に向けた勉強の日々が始まり......ませんでした。研究室の輪講とクソ重実験が辛く、院試対策を開始できたのは7/21でした。

  • 出願

 出願については、航空宇宙工学科の方は考えることもなく簡単でした。大学院に向けた研究テーマの欄を「宇宙構造に関わる研究」の10文字で済ませて出しましたが、まあ合格したので、この時点で詳細まで考えておく必要はないと思われます。面接の時に研究テーマについて聞かれるので、そこまでに準備しておけば良いでしょう。

 学際情報の出願は結構大変でした。自己推薦書や研究計画書を書いたり、研究室のボスに推薦書を書いてもらったりする必要があります。自己推薦書にはGPA、東京大学の学部横断プログラムの取得、学科でのシケ長業務、ハッカソン準優勝、一年時のクラスVTuberモデリング、VRchat向けアバター販売、創作系サークルでの活動などを書きました。色々やっておいて良かったと思うと共に、自分が自由時間を一切航空宇宙系に使うことなくCGとかVR周りに使っていたことを再確認しました。研究計画書にはVR×宇宙開発みたいな内容について書きました。要旨を200字程度で、また本文を4P以内で書く必要があったのですが、私は出願締切3日前まで要旨(Abstraction)だけを書いておけばいいと勘違いしており、本文を書く必要があることに気がついた時には肝を冷やしました。研究計画書を書く際には、全く分野が違う友人に確認してもらったりして論理構成と分かりやすさを意識しました。

 

  • 対策

 出願が終わればいよいよ対策です。航空宇宙工学科には筆記試験と軽い面接が、学際情報学府には研究計画発表を行う面接があります。TOEICは6月ごろに受けておきました。勉強開始が7/21、学際情報の面接が8/19、航空宇宙の筆記試験が9/1&9/2、面接が9/3という日程でした。7 月までは工学部の数学を2年分ほど解いたのみだったので、学科の友人が7月頭から院試休みに入っていたことや、既に過去問を全教科解いていたこともあり、かなり自分の勉強ペースが遅れていることを感じていました。学際に受かっても航空に落ちては学科の勉強について行けなかったようで格好悪く、また航空に受かって学際に落ちるのは学力により選択肢を狭められていて気持ち悪いと感じたため、両方に受かるように対策をするつもりでいました。しかし、二兎を追うものは一兎も得ずとなる可能性が頭をよぎり続け、合格するまでの間は常に不安に取り憑かれていました。

 一先ず、7/21~8/12の三週間で航空の教科書を読んで復習し、各教科の過去問を二年ずつ解き、8/13~8/19までは学際の院試に集中し、8/20~8/31に過去問を再び遡って解いていくことにしました。

 航空の方の院試は、工学部共通の数学を一日目、専門科目を二日目に解きます。面接はほぼオマケで、だいたい何を言っても成績が良ければ受かります。研究室希望は合格者のみが提出するため、面接時のアレコレが研究室振り分けに影響する可能性は低いと思われます。

 数学は工学部共通の問題が出され、例年であれば6分野(微積フーリエ変換・行列・曲面・複素関数・確率)のうちから4つ選択すれば良かったものの、今年は出された問題全てに答える形式に変更されており、ある分野を捨てるということが出来ませんでした。過去問を解いてみると結構線形代数複素平面の範囲で身についていない事柄が多く、対策に最も時間を取られました。過去問を10年ほど解いて何とかなりそうな気がしてきたので対策を終えました。

 専門科目は制御・推進・固体・流体の4科目から3科目を選択して答えます。問題ごとの難易度の差が激しく、また6割程度取れれば受かると言われていることから、全教科を広く浅く対策して簡単そうな問題から解くのが良いと思われます。対策としては、全教科を3年分ほどがっつり解いた後に、過去問を眺めて気になった問題を解いていました。また、セメスター末試験の対策ノートも全教科見直しました。真面目に学科の勉強をしていれば試験対策時の記憶を多少思い出すだけで6割程度は取れるので、自分の学科での成績がそこそこだったこともあり対策は適当でした。

 面接対策は(学際に受かっていたので)行いませんでした。 

 続いて学際の面接のために行った対策を書きます。面接では5人ほど(忘れた)の教授陣の前で、自分の研究計画をスライドで発表する必要があります。適当にスライドを作り、同じく学際を受ける友人に頼んで発表練習をしたりして備えました。特に意識した点としては、第一希望の研究室の先生のホームページに「学生にはプロトタイプを持ってきてほしい」と書かれていたため、VR上でプロトタイプを作成し動画をスライドに埋め込んでおきました。また、予測される質問に対して解答となるスライドを添付しておいたりもしました(役には立ちませんでした)。

 

  • 受験本番〜合格以降

 先ずは8/19に学際の面接がオンラインで行われました。発表の後の質問で、ロボティクスやるなら知っていて当然の内容を聞かれ、答えられずに顔が真っ青になりました。質問した先生から「でも分野外にしては良く研究計画書が書けています」とフォローされました。また、第一希望の先生の食いつきが悪くも見えたため、面接が終わった後は落ちたと思い込み一人泣いていました。

 そこから当分の間は「俺は航空宇宙工学徒や!」と航空の対策に没頭していましたが、11/28に学際の合格発表があり、合格者一覧に自分の番号を確認できました。とりあえず一つ受かったので、29日以降の三日間は航空の対策もせず遊び呆けていました。

 航空の受験は精神的余裕もあり、楽しく受けることが出来ました(他人にとっては迷惑)。数学も専門も7割以上は取れた気がしていたので、まあ受かっただろという気持ちでいました。面接の会場では自分だけが私服で来ていました。スーツで来なさいとはどこにも書いていなかったのに、何故......?

 9/15 ごろに合格発表があり、無事航空も合格していました。こうして選択権を手に入れたのですが、分野を変えたいとほんわか思ったために学際に入学することを決め、航空の方に辞退届を出しました。この後学際のお世話になる先生にメールを出すのを忘れていたため、あわや両方に受かったのに何方にも行けない事態になりかけました。

 航空の成績は890点ほどでした。満点は不明ですが、大体700点ほどあれば受かるようだったのでそこそこの成績を取れたようでした。良かった〜〜

 

 以上が合格体験記になります。このブログを読んだ人、複数の院試を受けようとしている人の応援になることを願います。

 

(追記)

 学際情報学府先端表現の倍率は3倍程度であり、東大に対応する学部がないこともあって、東大の内部から半エスカレーター式に受かれる工学部と違って東大生でもガンガン落ちます。参考までに、航空の内部生は9割以上航空の院に通ります。入試問題も定期試験の問題をちょっと変えたようなものですし、内部生は相当の情報アドバンテージを得ています。 

 体感ではありますが、学部時代にコンテンツを創作しておりポートフォリオが書けること、それを踏まえて自分ならではの研究計画を書けることが合否を分けているかと思われます。

 先端表現情報学コースにはXR系の教員が多く、情報学と工学と創作の間で楽しみたい学生にはとてもお勧めできる大学院です。コンテンツ力で戦える方は、内部・外部を問わず受験を考えることを勧めます。

 因みに東大の留年率は2割ほどであり、周りの様子を見ると(例えば修士の中間発表に到達する人のリストを眺めると)、学府全体で2割、先端表現では1割ほどが"脱落"しています。淘汰は終わらない......!また、先端表現情報学コースは、外部生の結構な割合が留学生と社会人であり、純粋に他大学から上がってくる人は案外少ないです。そのような人は大抵学術ガチプロか創作ガチプロです。入試科目は少ないですが、結局のところ狭き門であることは意識すべきでしょう。

 

 

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