生存戦略、社会貢献、自己実現、もの作り

はじめに

 

修士の二年間も終わり、春が近づき、また新たな生活が始まろうとしています。自分は就職ではなく博士進学を(積極的に)選んだのですが、博士をちゃんと取得し、また今後の人生をより良いものにしていくために、そろそろ真面目にキャリアプランやら研究プランやらを考えなければならなくなってきました。

 

これまでの人生は「より良い(楽しい)場所に置かれる」「置かれた場所で咲く」ことを概ね考えているだけでなんとかなったし、それなりの成果も得られてきました。しかし、そのようにして次の三年間を過ごしてしまえば、就職のための実績も無し、就業経験も無し、金も無し、プランも無しの「自分は何かを手早く学習することが出来るから何とかなるだろう」と考えつついつの間にか同期と埋められない差を付けられている救えない27歳が生まれる気がしています。

 

人生で何を優先するか、何に貢献するか、何になりたいか、どのようにそれを達成するかを真剣に考える時期が来たようです。

 

しかしながら、今後の人生プランを考えるにあたり、考慮すべき物事を数え上げてみれば、頭一つでは整理しきれないほどの量が出てきました。就職はアカデミアか企業か、それとも起業するか?お金はどのくらい必要?人生をより楽しみ、より世界に貢献するには?パートナーに無理をさせないためには?人との繋がりをどう作るか?どのようにギバーになるか?博士課程で何をすれば楽しく、独創的で、質が良く、インパクトがあるか?今ある研究ネタのうち、どれが面白く、重要で、かつ結果が出せるか?どのような実績を持てば就職に有利か?研究者になるにして、どの競争的資金にどのタイミングで出していくか?どのような先輩になりたいか?どのようにラボの力を入れている部分と自分の興味をすり合わせるか?論文・コンテンツをどのように作っていくか?健康に生きるには?

 

自分の未来に選択肢があるうちに、選択をしなければなりません。このブログでは、上に書いたような諸々を考えて、纏め、今後の人生の(少なくとも博士三年分の)指針とすることを目指します。多分XR界隈のエンジニアかつクリエイターかつ研究者みたいな人にも役立つと思います。

 

前提: 24歳学生、XR・アバター系の研究に従事、体験・コンテンツ設計も好き、創作でいくつか受賞、学振有り、博士進学予定

 

 

どのように働くか、金を稼ぐか

働き方の選択肢としては、大別すると企業就職、アカデミア職、独立(起業)があります。

まず企業で働く場合、よほどお金が必要になる事が起きなければ、今の研究テーマに関連する職(か学士に関連する職?)に就くことになると思います。博士取ってコンサル行くような人も見ることには見るのですが、まあ積極的には目指しません。安定性や転職のしやすさを考えればベンチャーよりも大企業に行く方が良いと思います。よほど大企業ではできないテーマで、かつめちゃくちゃ頼れる人がいるならベンチャーも良いかも知れませんが、基本的にはそんな出会いは無さそうですね。博士就職の場合だと、業界就職というよりはジョブ型の、就く場所ややる仕事が決まっている場合が多そうな気はしますが、実際のところはどうなんでしょう。アカデミアや独立と比べて余り個人名が出にくいというのは、個人的にはデメリットではあります。クリエイターっぽいことをしたければ電通sony等にもクリエイター班みたいな部署があると聞きますが、まあそこに行くなら博士は要らなそうなので、勿体無さがあります。

 

アカデミアに残ることについては、研究自体は楽しいものの、プレイヤーでなくマネージャーとしてやっていけるか、またメンタル的に大丈夫かという点で不安が残ります。まず前者については、学生より上に行くと、研究のみならず予算を取って指導して大学業務をやって分野コミュニティを運営したりしないと行けないと聞きます。率直に言って、自分にはその適性が不安です。自分は他人に期待して自分と同程度の献身を求めてしまうタイプなので、めっちゃパワハラとかしてしまいそうでもあります。また他人に対して共感するトレーニングを積んできておらず、パートナーからも「解決を目的にすることを言い訳にして共感を積極的に諦めている態度は直した方がいいよ」と言われており、改善が必要だと思っています。これはアカデミア就職に限らないか。メンタル面に関しては、予算が落ちるとか、数年に一度評価されてクビになるとか、自分の分野を天才が焦土にしていくとか(?)、深夜に緊急の連絡が来るとか、共同研究がうまく動かないとか、そう言ったTwitterで流れてくるような点が不安ではあります。研究者としてやるには競争的予算とかにも出していく必要がありそうですが、「さきがけ」の感想文を読んでみると「パートナーに支えてもらい……」という文章が高頻度で出てきて不安になります。勿論、感謝を示している面もあるのでしょうが、パートナーの献身を前提として争うような業界に残って戦いたくはないですね。まあ、不安点の幾つかは博士の間で体験版を味わえそうなので、適性を見定めていこうと思います。研究インターン留学とかポスドク留学とかも機会があればしたいですね。

 

独立する場合は大学発ベンチャーの形が最も良いかなと考えています。卒業後直ぐもあり得ますが、ある程度研究を続けてからその開発物でもって起業する(ex. MPLUSPLUS社)のも良いですし、3年くらい企業で働いてシステムを学んでから起業するのもいいですね。学振の規定で期間中は起業できないので、結局ポスドク期間を挟んで準備することにはなりそうです。NPOとしてやっておくというのも良いですが。起業のネタには、単に大企業がやっていないことでなく、大企業でやれないことをやるべきだと聞きます。具体的には、今の研究の延長でやるか、VR体験設計をするかかなと考えています。自分の比較優位、或いはセンスを示すものとして、学振を取っていることとXR系のデカい賞を取っているというのがあり、大学発ベンチャーならそれらをお金や仲間を集めるのに活かせるかなーと思います。近頃はアカデミアそのものより産学の境目にお金が落ちやすいと聞きますので、金銭的にも魅力的ではあります。個人クリエイターとして(学位を活かさずに)業務委託などをしていく道は考えておらず、大学発ベンチャーとした方が、やることは変わらなくてもお金をより引っ張って来れそうだと考えています。部屋を安い料金で借りられる等といった、大学からの支援も得ることができます。

 

結局、進路の優先度や選択条件を考えれば以下のようになります。

1. 大学卒業→ポスドクor数年企業勤め→独立して大学発ベンチャーをやる(生活基盤に安定感がある場合)

2. アカデミアに骨を埋める (めちゃくちゃ適性がある場合)

3. 大企業に骨を埋める (安定が欲しい場合、やりたい事が少なくなった場合)

4. ベンチャー就職 (物凄く頼れるかつ自分より面白いことをやっている人がいた場合)

 

人生で何を為すか、どのようにコミュニティや世界に貢献していくか

好きなことをやりつつも、それがどのように貢献するのかを考るべき時が来ました。以前、建築系の博士の人から、「何のために研究をするの?社会に貢献するとか、考えたことないの?建築系だとそういう系の批判とかあるんだけどなぁ……」と言われて何も答えられず歯痒い思いをしたことがあります。この人が本気で日々社会に貢献することを考えているのか、もしくはそういった評価基準を競争的資金の獲得等を通して内在化してしまったのかは知りませんが、とにかく今後研究していく上では内発的な動機だけでは(競争的予算の獲得とかで)戦えなくて、社会貢献などの要素も考える必要があるようです。

 

どのようにして内発的な動機と社会貢献を繋げていけば良いのでしょうか。近年良いとされる価値観には、SDGsやウェル・ビーイング、多様性と相互理解などがあり、それらと研究を繋げること自体は出来ます。ChatGPTを使っても繋げられると思います。しかし、論文や申請書にそういった文章を書いたとしても、何となく上滑りしている感覚があります。そういった価値観を冷笑したいのではなく、自分なりに納得のいく形で、研究とそれらの価値観を繋げたいと思っています。


例えば、私が研究している非人型アバターの研究の価値としては、しばしば「このような身体特性の探索は、physicaly disabledな人々への新しい補助具になり、健常者には新しい身体の可能性を提示する」と記述しています。これはこれで良いのですが、まだ借り物の言葉な感があるため、もっと自分の内発的動機(アバター表現への興味)により近い形で価値を見出す必要がありそうです。

 

ある先輩からは、最初から世界規模の貢献を目指す必要はなく、まずは小さなコミュニティから貢献を始めることが大切だと言われました。具体的には、研究室から始め、次に学会、その次に地域社会といった具合に、だんだん自分事として考えられる範囲を広げていけば良いそうです。当面はこの方針で実践していきたいと思います。

 

人との繋がりをどう作るか

アカデミア就職にせよ企業就職にせよ起業にせよ、人との繋がりは大きな財産になります。繋がりを得る手段としては、学会や展示イベント、インターンハッカソンTwitter、人からの紹介などが考えられます。何かいい感じの賞を取ったりすれば、それは次の人間関係への引換券となります。

 

人と繋がる上では、自分が相手から何かを貰おうとするばかりでなく、自分が相手に何かをあげよう/一緒に成長しようという態度が大事っぽいと最近は実感しています。コミュニティの中で大事な人物になることも、顔を広める上で有利に働きます。展示会とかで作品も見ずに名刺交換と挨拶だけして「何か一緒にできたらいいですね〜」とか仰る愉快な人がいますが、信頼がない繋がりは次に繋がらないので価値が薄いです。一緒に何かをやって、それを良い経験にして、信頼を得、紹介を通じて繋がりの輪を拡大していくことが必要だと感じています。つまり、今ある繋がりを大事にして信頼を得ていくことを先ずは意識していきたいですね。

 

博士課程で何をするか

分野によって求められるものは違うとは思いますが、一般的には、少なくとも論文を3本書くことが必要だと聞きます。(自分が行く学際情報学府の卒業要件は調べてもでてこなかったけど厳しめらしい...... ) といってもデファクトスタンダード的な部分はそんなに問題ないと思っていて、むしろ博士課程入試面談の際に言われた「東大の博士なら不変の真理を見つけなければならない、学府の博士なら(純粋工学ではなく?)表現をやっていかないといけない」という部分が課題になりそうです。後半は別の言い方だったかもしれない。

 

色々な博士の人や先生から聞いた話では、博士課程では「新たな課題(=領域)を定義して」「それを塗りつぶす」ことが必要らしいです。前半は、自分のイメージでは、これまで人類が研究してきた大きな「既知の領域」があって、それの辺々に位置する「未知の領域」に対し、問い(クレーム)を立てることによってその一部を切り分け、明快な解くべき課題にする、といったイメージです。後半は、そうして立てた課題に対して、(複数の実験を通して)throughoutに解く、といった意味だと思います。修士課程では非人型アバターについて色々やったものの、微妙に方向性が違っていたために修論内で纏めるのに苦労しました。結局は4つのやったことから、再度分野と価値と課題を再定義する形で修論のまとめパートを書いたのですが、やはり自分では納得いってないので、博論では一気通貫した議論ができたらいいなと思います。

 

そのような博論を書くための戦略としては、先ずは「3年分くらいかけて取り組むべき大きな問いを見つける」ことが求められます。修論や学振で書いた視点をちょっと時間をかけて整理して、良い方針を見つけることが必要そうです。また、実際に取り組んでいく段階では、博論の要素を埋めるようにしつつも、必要に応じて問いを洗練させ方針を見直していくことになりそうです。また、実際に博論を書いた人によれば「結局自分の手札を並べ直して、議論を構成しなおす」ことになるらしいので、手札の数を増やしておくことも重要そうです。自分としてもやっと滑らかな論文の書き方が分かって来たし、重要度はともかくしてやりたいネタも沢山あるので、数をやっていきたい気持ちはあります。折角3年間は評価されずにいられるので、もう少し腰を落ち着けてデカいテーマをやる方がいいのでしょうか...?わからない......。まあ、デカいコンテンツを作りつつ、国内の学会参加や論文も増やしつつ、「分野を作るような論文」を一本でも出せることを狙っていきたいと思います。数を出すことは実績や自己アピールの上でも有用そうですし。

 

結局就職とかする上ではデファクトスタンダードも大事です。実績一覧に書けそうな実績はこんな感じだと思われます。

  • 研究発表系
    • 論文誌(国内、国際)
    • デモ発表
    • ポスター発表
    • それらの受賞
  • その他
    • 競争的資金
    • 特許
    • 登壇
    • 産業系の受賞
    • 本を書く、本の査読
  • 人間として
    • 研究会とか若手の会とかコミュニティの主催
    • 留学??
    • アウトリーチ的な部分とか

とりあえず博士課程の間に、国際論文誌と学会発表の受賞、特許、留学くらいは実績解除したいと思っています。修士の間に行った国ではオーストラリアが一番良かったので、オーストラリアに行きたいな。あと、ACT-Xとかにも出していきたい。具体的な研究課題を考えねば...

 

修士課程で「Mechanical Brain Hacking」という作品で(これもフルペ化しないといけない)実績を結構盛れたように、そのくらいの論文やコンテンツを博士でも2本くらい作りたいです。つまり、通算でホームランを三本打ちたい。研究室内では「三割打者を目指せ」、毎回ホームランを目指すのはやめとけと言われた記憶があります。これまでの実績的には、半年に一本くらいは国内論文や国際デモを出しているので、今後は国際論文をそのくらいのスピードで出せる能力を身に付けたいと思います。別に半年サイクルがいいと思っているわけではありませんが、それが出来る程度の研究筋を付けたいなと。

 

コンテンツを作る

XRコンテンツを作るのは楽しいですよね。特に自分は5~15分くらいの、XRデバイス以外のハードウェアとも組み合わせた、単発の体験のコンテンツを作るのが好きです。アテンドとかとも組み合わせて、体験者のモノの見方に不可逆的な変化を与えられるような作品を作りたいなと考えています。

 

自分の作品の元ネタは大体SF系から来ています。例えばMechanical Brain Hackingはテッド・チャンの「息吹」の中でロボットが自らの脳を開いて意識の所在を探索したシーンに大きく影響されていますし、新作のLLMエージェントを使った作品は打ち捨てられたアンドロイドがいつまでもマスターの帰りを待っている、みたいな絵からインスピレーションを受けて作りました。今の新技術で何を出来るかを理解し、未来を定義するようなプロトタイプを作ることが多分自分に合っているのだと思います。

 

おわりに

やりたいことが多すぎて、きっとやらないことを選ぶことも重要なのですが、やらないことを選ぶことはとにかくやることよりも難しいなと思っています。具体的な研究プランについてはここには書けなかったのですが、それ以外は大体整理されてきました。結局は、人との繋がりを作りつつ博論の構成を見据えて研究計画を立て、あとデファクトスタンダードも獲っていこう、って感じですね。また三年間楽しく過ごせたらと思います。